2016年08月03日

花火 一

カツさんは忙しいのかね 一人で歩いて來ると 大變ぢゃないのかい どれほど歩く

 五十分

 往復なら相當な道になるね ちゃんとカツさんには言ってから來てゐるんだらうね

 大丈夫 紙に書き置いて來たから 會社の社長が出張でゐないから カッチャンが留守番してるの 歸りが七時近くになるから

 七時 それなら六時前には歸らないとね 大變だな 御前も良い子にしてるんだろ 

 大丈夫 

 それでカッチャンはいつまで獨り身でいらっしゃるのかね こんなこと わたしが言ふのもなんだけどね 早く退院が出來て 御前と二人で暮らしたいんだけどね こればかりは 體が思ふ通りにならないんだよ

 私なら心配は要らない あと三年で中學を出る そしたら 一人でやる 母ちゃんぐらゐ養へるは

 まぁ 大きく出たね でも 三年は永いよ カツさんも三十になっちゃふぢゃないか

 あたしは孤児院でも何でもいい 母ちゃんこそ早く元氣になって  

 今日は天氣が好いね ちょっと窓の外を眺めてみようか


posted by ゆふづつ at 22:24| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする

2016年06月12日

十歳 十二

 なんだか元氣ないね あんたの好きな鯨のベーコンだよ

 あんたが大人しいと なんか心配だよ どうかしたのか

 どうもしないよ 

 森くん もう廣島かい

 ああ

 よかったねぇ またお父さんと一緒に暮らせる

 お父さんなんか 要らない

 あなたは さうなの?

 一度も お父さんなんか ゐなかったし

 さうだね 私も あんたより少し年上のとき 父さんが死んぢゃった そして直ぐに母親も それからづっと一人だったからね 親なんか要らないと思って來た

 ゐなきゃゐないで慣れるものね かっちゃんも 早く結婚したら あたいなら 一人でも平氣だよ

 わたしたちは兄弟だろ いつまでも一緒にゐようよ

 兄弟のまま年を取るのか

 それもいいかしら

 變だね 私たちは



posted by ゆふづつ at 19:09| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする

2016年04月16日

十歳 十一

 せっかくお見舞ひに來て下さったのに 痛み止めが效いてる所爲か ぐっすり眠ってゐるんです

 いえ ご無亊だと分かっただけで もう それより 少し遠いですが 丘の上にも どうぞお遊びに來ていただけませんか お休みの日にでも 

 ありがたうございます 實は 夏休み前に 廣島に戻ることになりまして

 廣島に

 はい もともと 文太郎の父親が ちょっと事情がありまして それが戻って來れたものですから 三人で また廣島で生活することになったのです

 はぁ それはよかった 靜は寂しくなるでせうけれど

 いいえ 私が不器用なものですから あの子には苦勞をさせました 廣島から山口 山口から東京 東京からこちらへ と 仕事のために轉校ばかりさせて 御蔭で授業にはついてゆけなくなるし 友達とも直ぐに別れるし でも こちらへ來たときは この靜ちゃんの御蔭で 本當に學校が樂しかったやうです あの子 ちょっと變はってゐるでせう? わがままだし 頑固なところもあるし 私に似て不器用なところもある 親の惡いところばかり眞似して それをうまくあしらって下さったのが靜ちゃん

 さうなのかい 靜?

 文ちゃんはね 男の子が好きなんだよ あたいのことなんか嫌ってゐる

posted by ゆふづつ at 22:37| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする