2017年01月14日

花火 八

 翌朝、靜が町から歸るとカツはまだ寢てゐた。まだ何も食べてゐないやうだ。苦しさうではないが、蒲團を被ったまま、小さな寢息を立ててゐる。
  
 晝過ぎに來た仙藤醫師は、心配ない、起きるまでは何も食べない方がいいと言ひ、榮養注射を一本打って歸った。猫達もときどき出て來て、心配さうに蒲團を覗いたりした。

 あぁ厭だ。このまま起きなかったらどうしよう。小學生と猫だけで暮らして行くことは出來ない。この世はさういふ仕組みになってゐない。とはいへ、母親のタケと離れ、この町から遠くへ行くことも出來ない。

 自分だけ養護院へ行くにしても猫達をどうしようか。母親のノラ子だけは昔取った杵柄で何とか生きられるかも知れないが、生まれてこの方野良を知らない子どもたちは?きっとこの家も狐や狸に占領されてしまふだらう。圖體がでかいだけでは生きて行けない。ねぇ、お前たち。

「いやいや、さうでもニャー。追ひ込まれれば何とかなる。人間は、いや猫は思ったより強いものさ」

「さうだニャ。自分が駄目だと思ったときが駄目な時なのさ。心配してゐる間はなんとかなる。いや、なんとかしてくれなきゃ困る。ねぇ、神樣」

「おやおや、困ったときの…」

 わかったわかった。お前たちはあたしがなんとかする。でもその前にカツちゃんをなんとかしなきゃ。お前たちもよくお祈りするんだよ。囘蟲よ出てけーって。

posted by ゆふづつ at 19:12| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする

2017年01月07日

花火 七

 翌日、靜が歸るとカツは寢込んでゐた。これまでも寢込んだことはあったが、まだ晝の内から寢込むのは初めてだった

 靜かな寢息を立ててゐる。額に手を當ててみると、少し熱があるのか、靜の手より温かい

 大丈夫かな。靜は胸騒ぎを覺えながらお勝手で粥を炊き、猫の世話をした。時々寢間へ戻るが、カツはじっと動かない。布團をかけた軀がまるで人形棺のやうに不氣味な形をしてゐた

 そのうち、町の女醫師がやって來た
「おや、もう歸ったの。いいところへ來た。お姉さんはお腹の蟲が暴れてね。少し樣子見といふところよ。本人はいいと言ったけど、しばらく動けないと思ふ。親兄弟には知らせたの?あんた一人ぢゃどうにもならないはよ」

「知らせるところなんかありやせん。親兄弟もないですから」

 仙藤醫師はカツを診終へると、
「眠ってゐるときは御飯を上げなくていい。今のところ安心だけど、何しろ相手は蟲。急に暴れるかも知れない。そのときは電話してね。夜中でも好いから。あなたもお粥を食べたら早めにお休みなさい」
 
 さう言って返った。

 何だ、詰まらない。お腹の蟲が騷ぐなんて。きっとかっちゃんなら平氣。あたしだって蟲下しで治したんだから。

posted by ゆふづつ at 19:44| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする

2017年01月01日

花火 六

 なんだか軀がをかしいよ

 お腹 痛いの?

 うん ちょっとね 明日にでも先生に診てもらふよ

 ふぅん かっちゃんでも弱ることがあるんだね

 何言ってるんだよ 昔から體が弱い こどもの頃はよく學校を休んだ 

 へぇ 

 だから 明日の晩御飯は 何か温かいものでも取り寄せよう 何がいい?

 かっちゃんと同じでいい

 さう? お前はうな重でも食べな

 ぢゃ 二人でお粥食べよう あたしが作るから 明日は作っておく

 そんなに心配しなくていい こんなのよくあるんだから 會社も休まない 引けてから診てもらふ 明日 あんたが歸ったときゐなくても 暗くなる前には歸る うな重でも買って來るよ

 要らないってばさ お粥作っておくよ

 さうかい ぢゃ頼んだよ

 うな重要らないよ

 わかった あぁ 花火だ


posted by ゆふづつ at 22:31| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする