2017年04月19日

五五菊しんぶん 二

昭和三十六年四月十九日水曜日晴れ

 先日、キューバでピッグス湾事件というのがあり、あたかも私に関係があるかのように言われましたが、私は豚ではありません。むしろイノシシです。ふがふが。もっともピッグス湾というのは現地スペイン語でバヒアデコチノス、豚野郎の湾という意味だそうですから、少し当たっています。

 私の姉は家がつぶれ、ふた親も早くに亡くしたので高校もやめて働き出しました。そのため勉強はまったくできませんが、なまじ頭が空っぽなために、ときどきみょうな知恵をあみ出すことがあります。

 その中のひとつに、「人は鏡、鏡は心」ということばがあります。人は世の中を見ることにより自分を知り、自分の心が分かるという意味だそうです。一見何のことかわかりませんが、ようするにお前の母ちゃんがデベソだという人は自分がデベソだということです。

 今朝は庭に霜がはっていたのに、学校についたら汗が出ました。汗。寒暖差が20度以上。ではみなさんごきげんよう。(記事 五年五組 藤原しづ)

posted by ゆふづつ at 20:27| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする

2017年04月10日

五五菊しんぶん 一

昭和三十六年四月十一日火曜日くもり

 このしんぶんの名前は「五五菊しんぶん」。本当は記者がわたしだけなので「藤原壁しんぶん」なのですが、そのうち五組も新聞委員が増えるかもしれないので学校の名と町名とを採ってみじかくしました。

 さて五年五組の長い一年が始まりました。本日は転入生の小島均くんのことを書くことにしました。小島くんは見ての通り、顔が満月のようにふくれています。これは喘息の薬のせいなので、もともとは目がぱっちりと大きく、好い男なのかと思います。

 喘息は夜中に息が苦しくなる病気のようです。この薬がないと苦しくてやっていられないそうです。しかし勉強もお行儀もなかなかの優等生。優秀な生徒が少なくないこの学校でもけっこう目立つかも知れません。病気を持って普通より小さな体なのに偉いと思います。

 家は清滝の市営住宅にあります。近所の人は寄ってみてください。ただし自分が訪ねてよろこばれる人かどうか、じっくり考えたほうがよいでしょう。もっとも、じっくり考えるような人は、あんがい考える必要はないのかもしれません。

 と、まあ今のところはこのくらいのことしか書くことがありません。四月ですが、まだ朝晩は寒いですね。かぜを引いたり、体調をくずさぬよう、がんばってください。(記事 五年五組 藤原しづ)

posted by ゆふづつ at 23:48| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする

2017年03月20日

花火 十三

 白にK斑が一匹、鯖トラが二匹、南側の窗邊で日向ぼっこをしてゐる。白にK斑は蓋の開いた湯船の水に飛び込んだのでボチャと呼ばれてゐる。鯖トラの一匹は臆病でギョロ目だからギョロ、もう一匹の鯖トラはよく鳴くのでニャオと呼ばれてゐる。みんなヲスである。ただし玉は拔いてある。

 ボチャが云ふ。
「今日は休みらしいのに、二人ともでかけちゃふなんて」

 ニャオ
「さうだな。初めてぢゃないか。あんなボロ自轉車で坂を轉げたらどうするんだ」

 ボチャ
「さうだな。俺たちみたいに家でゴロゴロしてゐる方が無難だな」

 ニャオ
「さうだよ。外は猫又といふのがゐて、俺たちみたいなのはイチコロで喰はれちまふさうぢゃないか」

 ボチャ
「その話はアテにならない。靜が云ったんだらう。あの子は作り話が多い。もし猫又といふものがゐるなら、俺たちも一遍ぐらゐは見てゐる筈だ」

 ニャオ
「いや分からんぞ。俺たちみたいに家の中に閉じ籠もってゐたら何も知らんかも知れない。カツや靜の話を聞いたら、世の中は案外もっと廣いやうな氣がする」

 ボチャ
「おい、お前はどう思ふんだ」

 ギョロ
「さあな。どうでもいい。それより何かカツヲの生節でもお土産で買って來るといいな」

 ニャオ
「ああ母ちゃんが戀しい」

 みたりは昨年の九月に亡くなった母親のお墓を眺めた。それは窗の外の東の金木犀の下にあった。

posted by ゆふづつ at 23:26| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする

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