2017年01月07日

花火 七

 翌日、靜が歸るとカツは寢込んでゐた。これまでも寢込んだことはあったが、まだ晝の内から寢込むのは初めてだった

 靜かな寢息を立ててゐる。額に手を當ててみると、少し熱があるのか、靜の手より温かい

 大丈夫かな。靜は胸騒ぎを覺えながらお勝手で粥を炊き、猫の世話をした。時々寢間へ戻るが、カツはじっと動かない。布團をかけた軀がまるで人形棺のやうに不氣味な形をしてゐた

 そのうち、町の女醫師がやって來た
「おや、もう歸ったの。いいところへ來た。お姉さんはお腹の蟲が暴れてね。少し樣子見といふところよ。本人はいいと言ったけど、しばらく動けないと思ふ。親兄弟には知らせたの?あんた一人ぢゃどうにもならないはよ」

「知らせるところなんかありやせん。親兄弟もないですから」

 仙藤醫師はカツを診終へると、
「眠ってゐるときは御飯を上げなくていい。今のところ安心だけど、何しろ相手は蟲。急に暴れるかも知れない。そのときは電話してね。夜中でも好いから。あなたもお粥を食べたら早めにお休みなさい」
 
 さう言って返った。

 何だ、詰まらない。お腹の蟲が騷ぐなんて。きっとかっちゃんなら平氣。あたしだって蟲下しで治したんだから。

posted by ゆふづつ at 19:44| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする

2017年01月01日

花火 六

 なんだか軀がをかしいよ

 お腹 痛いの?

 うん ちょっとね 明日にでも先生に診てもらふよ

 ふぅん かっちゃんでも弱ることがあるんだね

 何言ってるんだよ 昔から體が弱い こどもの頃はよく學校を休んだ 

 へぇ 

 だから 明日の晩御飯は 何か温かいものでも取り寄せよう 何がいい?

 かっちゃんと同じでいい

 さう? お前はうな重でも食べな

 ぢゃ 二人でお粥食べよう あたしが作るから 明日は作っておく

 そんなに心配しなくていい こんなのよくあるんだから 會社も休まない 引けてから診てもらふ 明日 あんたが歸ったときゐなくても 暗くなる前には歸る うな重でも買って來るよ

 要らないってばさ お粥作っておくよ

 さうかい ぢゃ頼んだよ

 うな重要らないよ

 わかった あぁ 花火だ


posted by ゆふづつ at 22:31| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする

2016年12月28日

花火 五

 今日は花火大會だね 丘のお宅からも見えるだろ

 少し遠いけどね 手の平ぐらゐの大きさに見える

 そんなに近いのかい ここからは あの森の陰になって見えない 空がパッと明るくなって それから音だけ聽こえるんだ 一度 丘のお宅から見てみたいね

 來れないの?

 いつか行けるやうになるといいね

 早く來ないと かつさんが嫁に行くかも知れない

 そしたら あのお宅はどうなるのだえ

 賣ればいいさ

 猫達は?

 白井さんといふ知り合ひが飼ってくれるよ

 外へ出たことのない猫なんだろ


posted by ゆふづつ at 00:06| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする