2017年01月28日

花火 十

 靜は今年五年生になるが、もう背丈は學級でも二番目に大きく、圖體も堂々たるものだ。もう苛められることもない代はり、かなりな變人扱ひをされ、學級内では特殊な立場にゐた。

 生まれてから内房、笠掛、月代と言葉や風土の違ふところで育ったこともあり、また物心ついた時から父親を知らず、嚴しいタケに躾けられたあと、優しいカツの下で育てられた。本人の責任ではないとは言へ、これで大人になったら大丈夫だらうか?といふ不安が周圍にはあったが、一人平氣なのがカツのやうであった。 

 カツ自身、思春期の初めに両親ともに失ひ、暫く親戚の家に預けられた後、中學卒業後は一人で頑張って來た。そのカツだからこそ、靜のやうな變はり種と一緒に暮らせるのかも知れない。この月代の小學校では一學期に一度は呼び出されたが、カツが平謝りに謝り、靜には放任の姿勢を崩さうとはしなかった。

 そのことは靜にも分かってゐただらう、最近は少し大人しくなった。學校からの呼び出しも少々樣子が變はり、指導や注意といふより、報告と相談のやうになってゐた。

 今囘の呼び出しも、
「これは本來なら本人や御父兄には知らせるべきことではないんですが、實は昨年行はれた知能檢査の結果、靜さんのIQは141で、第四學年ではトップの成績でした」

「えっ、41ですか」
「いえ141です。だいたい中學二年程度の知能といふことですね」
「そんなに低いんですか」
「低かないでせう。しかも實は靜さん、途中で便所に行ったまま歸って來なかったんですよ」

「すみません。あの娘、頑張ると厠に行く癖があるんです」
「いやそれは別にいいんですが、あのテスト、本學の卒業生の川西といふ大學の先生が作ったものでして、いはば實驗的に行ったものなのですが、學力との相關關係が知りたいといふことだったのです。ところが靜さんの場合、學力がその檢査結果と著しい相反の結果を得ましてですね……なぜなんだらう、なんてね、不思議に思ふ譯でして」


posted by ゆふづつ at 21:43| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする