2012年10月31日

かか

 靜がこの町へ來て初めて、遠くへ出た。カカチャのゐる於呂~といふところへ

 日曜の朝早くから起き出し、海苔卷など作ってピクニック氣分だ。カカチャは戀しいが、會ふのが恐ろしくもある。あの痩せて、骸骨のやうになったカカチャが、もう死んでゐはしないか。そのカカチャは髑髏のやうな恐ろしい顏をして、幾度も夢に現れた

 カカチャと別れ、戀ひしくて、何度となく歩いて會ひに行かうと思ったが、清兵衞は、まだ駄目だと、唇を一文字に結んだ

 その清兵衞が死んだ代はりに、やっとカカチャに會へる。その療養院の院長といふのが長い手紙を寄越し、それを讀んだシルベスタが會はせてくれる

 どんな母ちゃんだったの

 と言はれても靜には言葉がない。カカチャは毎日靜を負んぶし、朝から晩まで働き通しだった。少し大きくなってからは、靜も背中から降りたが、カカチャの體が休まることはなかった

 その手がくれた十圓玉が、上着の胸ポッケにしまってある




posted by ゆふづつ at 00:00| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする