2012年08月31日

「お母さんは聖田の生まれなんだらう」

「それがよく分からない。祖母が聖田に住んでゐたことは確かなのだが、それもひと月とか半年とか、借家住まひをしてゐたらしい。何の爲に聖田に來たのか、どうして離れたのかもよく分からない。お袋もその話はしたことが無いんだ。

 おそらくは子供時分には餘り樂しい思ひ出が無かった。親父が生きてゐる頃も、その後も、昔のことは話したことが無い」

「そんなら私から話してもいいかい。お前さんの祖母ぁちゃん、タケさんと言ったね。お前さんの母方の家は元々は川練藩の家老の家格だったやうだよ」

「それは少し聞いたことがある。今の川練の學園長はお袋の伯父の從兄らしい。會ったことはないけど」

「維新後は軍人になったり、目が惡ければ教師になる人が多かったさうだ。タケさんも戰爭がなければ女學校を出て教師にでもなったんだらうけど、若い内に結核を煩ひ、その入院中に空襲で大怪我をして跛行になっちゃった」



posted by ゆふづつ at 00:00| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする