2012年08月29日

バウムクーヘン

「さうか。この世は闇の闇の中にあるんだ。しかし、我々の心は、何か、唯一の世界像といふものが無いと安心が出來ない。さうして創造されたものが神話なり歴史なりといふものかな」

「神話や歴史も、我々の個人史と本質的には變はらないよ。個人史は今の自分を作りあげてゐる全てと言ってよい。もし我々が完全な記憶喪失になったら、友人の顏を見ても、母親の顏を見ても、妻や夫の顏を見ても、何も思はないだらう。それはもはや以前の自分ではない」

「神話や歴史は、一つのネイションや民族に纒はるものだが、一人一人の個人にも纒はるといふ點では、個人史と變はらない、といふ譯だね。確かに、ある人にとって歴史は醜惡なものであり、祖國愛は拒絶すべきかも知れないが、八割か九割の人にとって、それは多かれ少なかれ郷愁を伴ふ安住の地にもなってゐる譯だ」

「我々の腦は、中心部から次第に發達して來たものらしいが、我々の精神も、中心部から次第に邊縁へといふ風な多層構造になってゐるのかも知れない。さうすると、歴史とか神話とかいふのは、その大半が無意識部分を占め、個人の歴史よりもよほど内側にへばりついた、我々の精神の根源を占めるものではないか」

「いや、むしろ。本當の歴史や神話は完全に無意識の領域にあるのだらう。物の本や學校などで習ふ歴史や神話は、相當に外側にある意識的な部分だと思ふ。我々はそれを否定することも出來るが、心の内側にある深層部分は、破壞したり模樣替へしたりすることが出來ない」



posted by ゆふづつ at 00:00| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする