2011年10月30日

天つ罪

「剥」といふ漢字がある。音讀は「はく」又は「ほく」。刀で獸の皮を剥ぐ象形であるといふ。

 發音と意味は倭語の「はぐ」と似てゐる。前に、ハヤスサノヲの命が、忌服屋(いみはたや)の屋根に穴を空け、そこから、天斑馬を逆剥ぎにして投げ落とした話を引用したが、あの「逆剥ぎ」の「剥ぎ」である。

 逆剥ぎは動物の皮を生きたまま剥ぐことを云ふ。なぜ生きたまま剥いだかといふと、ここではスサノヲのミコトが忌服屋(いみはたや)を穢すことに意味があるからである。死んだ馬の皮を剥いでも血は流れない。

 スサノヲノミコトは、逆剥ぎ以外にも、樣々な亂行を行ひ、姉の天照大御神を苦しめる。

 阿離溝埋(あはなち・みぞうめ)。阿離は畦(あぜ)を決壞し、田の水を流してしまふこと。溝埋は用水路を阻塞し、稻を枯死させることである。

 さらに、屎戸(くそへ)。供へ物の食品を納める殿舎に糞を放(ひ)り散らすこと。

 古事記は簡明に記すが、スサノヲの命が天上で行った罪は、もっと念入りだったらしく、

 樋(ひ)放ち=今の刑法では水道損壞罪。

 頻蒔(しきまき)=人が種を蒔いた上に、さらに別の種を蒔き、栽培を妨碍すること。

 串刺し=人の田に吾田串(あたくし)を刺すこと。これによりその田を自分のものとして横領しようといふのだ。今の刑法では境界毀損罪、占有まで奪取したと見られる場合は不動産侵奪罪。

 スサノヲノミコトが犯した、これら七つの大罪は、上古の倭人が最も忌み嫌った行爲らしく、天照大御神もウタテ覺えられ、天の岩屋戸に籠ってしまはれるのである。日本の犯罪リストの始まりであり、天上で犯されたので天津罪(あまつつみ)と言ふ。



posted by ゆふづつ at 00:00| 日記 | 更新情報をチェックする