2011年06月30日

ふみ 六

 ツチが生まれたとき、女も生まれた。ツチは、女もまた、自分と同じやうに、物を考へ、物を見てゐることを知った。ツチは女をイキと呼んだ。そしてイキは男をニイと呼んだ。

「俺の名はツチぢゃないのか」
「いいえ、ニイ」
「何ぢゃ、そりゃ」

「そもそも空の上の高い處は神樣の世界。その下にある地面が私たちのツチでせう。ツチの中には海もミヅ海もあるは。でも普通は私たちの棲む地面のことをいふはね。ただ、夏、海水浴をしてゐるときは、海もツチだはよ」

「何ぢゃ、そりゃ。それで、俺がニイと呼ばれるワケは?」
「このツチには、あなただけぢゃなく、私もゐるは。だからあなたをツチと呼ぶことは、あたかもライオンとキリンのゐる動物園のライオンをミスタア動物園と呼ぶやうなものなの」

「俺の方が體積が大きい分、お前より偉いのではないか」
「その體積が増えた分、他が凹んでゐちゃ駄目でしょ。それに、そもそも名前ってのは、呼ぶ人がつけるものなの。富士山が自分を富士サンと呼んでどうするの?あなたはこの地べたを跳び囘ってゐるから、泥んこ、つまりニイよ。大地はナ、野原はノとかヌ、泥んこはネとかニイとか、言ふでしょ?山のことを高嶺とかいふあのネ。どう、惡かないでしょ?」



posted by ゆふづつ at 00:00| 日記 | 更新情報をチェックする