2011年05月29日

葉隱 八

 正門管理棟。ここは小さな鐵筋の建家の中に二疊の控室とトイレ、湯沸室があり、事務室内には事務机二つとワゴンなど、ところ狹しと竝んでゐる。

 勤務員は二人。一人は門の脇に立って捥り、もう一人は事務室内で待機、券賣機の管理などを擔當する。ところが今日は平日だから入場客もパラパラ。十分以上も立ちっ放しの中村に、裏の口から出て來た渡邊が、
「こんな日は、適當に休んでおいた方がいいですよ。どうせ、一日中、こんなもんですから」
 と云ふ。さうして、こっち、こっちといふ風に、入口へ招き寄せた。

「お客さんが見えてから、出れば十分に間に合ひますから」
 と、小聲で云ふ。そんなことは渡邊にも分かるが、捥りは立ってゐて下さい、と大河原が強調してゐた。その爲に二人も配置して、一時間交替にしてゐるのだと。

 ドアを開ける前に、
「この中、隱しマイクがあるらしいですから・・・」
 と笑ふ。「ただ、誰がどこで觀てゐるか分からないから、如何にも用があるやうな素振りをして、戻らなきゃ駄目ですけど」



posted by ゆふづつ at 00:00| 日記 | 更新情報をチェックする