2011年02月26日

コロシアム 十(竟)

「コロシアムのママ、どうしてあんな商賣始めたんだらう。東京ぢゃ何をしてゐたのか知らないけど、お水の匂ひはしないんだよねぇ」
「それが不思議なんだ。親は二人とも小學校のセンセだったから、退職金だけでもン千萬は貰った筈。その財産がそっくり殘ったうへ、家まであるんだから、あんなちゃっちい店でチイパッパする必要はないと思ふだよ」

「隱れ彼氏でもゐるのかな」
「それは無い。男っ氣があれば直ぐ目につくし、あんな店を出すわきゃない」
 車は運轉手の斷定と裏腹に迂回し、やうやう及川の橋詰へ出た。及川街道の入口が擴張工事を行ってゐる。やがては隧道が掘られ、刺上にも繋がるらしい。笠掛も愈々發展する道理だ。

 橋の上の歩道に、ちゃうど上田福子の後ろ姿が見えた。辨當箱の入ったカアリバッグを右肩に下げ、手を振る獨特の恰好で歩いてゐる。
「隱れ彼氏でもゐるといいんだけどなァ」
 と鐵が苦笑ひした。
posted by ゆふづつ at 22:00| 日記 | 更新情報をチェックする