2010年11月29日

まど 七

 左手に疎らな人工林のやうなものが見える。
「一應はバアドサンクチュアリといふことにはなってゐるんだがね。折角あった沼も埋立てちゃったし、今のところ雀ぐらゐしか來ない」
 と大倉が笑ふ。

 笠掛市も北部に大企業の工場など立ち竝び、ちょっとした産業團地が出來てゐる。その分、税収も豐かになり、このセンタアも潤澤な豫算に任せて作ったのかと思ふが、やはり色々な思惑が絡むのだらう。

 田ノ岡も、
「さうですなァ。これだけの林ぢゃ巣も作れない。直ぐ前が川だし、向かう岸は山ですから。失禮だが、何がバアドサンクチュアリかと思ふ」
「まァ笠掛市としては相當な豫算をかけて作ったもので、やはり色々な都合が出て來るものらしい。私などの思ふやうにはなりません。しかしあと三十年もすれば、森らしくはなるでせうな。その頃は本物の森がなくなってゐるだらうからから、それはそれで役に立つのかも知れない」
 
 通用門を出ると、北側に高級住宅地が廣がってゐる。昔は畑地に森、茅葺の百姓家が點々としてゐたが、今はその面影もない。
「坂前さん、晝食は蕎麥屋でも宜しいかな」
 と大倉が聞いた。

posted by ゆふづつ at 23:25| 日記 | 更新情報をチェックする