2010年11月28日

まど 七

 窗の外、左手から田ノ岡が現れた。その直ぐ後に白髮の紳士。二人とも南側から囘って來たやうだ。紳士はガラス越に坂前と目が合ひ、互ひに會釋した。

 コンコンとノックがあり、顏を覗かせた田ノ岡が、
「センタア設立委員長の大倉さんだ。紹介しておかう」
 と、坂前を招き寄せた。急ぎ廊下へ出ると、今の白髮の紳士がニコヤカに笑ってゐる。

「さきほどお話し致しました坂前でございます」
 田ノ岡の紹介に促されて挨拶。冷や汗を掻くが、もう六十は過ぎてゐるやうに見える大倉、手にしてゐるステッキを握ったまま、
「今から我々、晝食を戴くのですが、貴方も御一緒に如何ですか」
 と誘ふ。田ノ岡も頷くから無論承知だ。

 三人で表へ出る。穩やかな日が差し、風も温くなったやうだ。薄手の半コートが丁度好い。
「ここらは何も無かったところなのですがねえ」
 大倉は邊りを見廻した。坂前もよく憶えてゐる。今歩いてゐる場所の直ぐ右手が小學校、左手は濕地に蔬菜畑、夜になると蛙の大合唱が聽こえてゐた。

posted by ゆふづつ at 23:03| 日記 | 更新情報をチェックする