2010年08月30日

聖田 十八

 次に美津繪母ちゃの墓へ上がる。尤も今は鐵の祖母や父親も眠ってゐる。この二人も湯殿に預けられてゐたのを、藤サがここへ移した。ただ鐵は祖母も父親も知らない。數葉の寫眞を見ても、まるで思ひ出すことが出來ない。

 美津繪母ちゃのことも、眞っ先に思ひ出すのは、葬式のときの果物や菓子の美味さ。この世にこんな美味いものがあったのかと思ひ、貪るやうに食った。夜中に母ちゃが出て來て、「うまかもん食へて、よかよか」と褒めてくれた。母ちゃがその爲に死んだのかと思ふと、何だか切ない氣持が込み上げて來た。

 へこさん おまんはどけ 行きやんす

 おいどま 出水に なぐさみに

 そんなら あたしも つれしゃんせ

 こまいこどもは 邪魔になる

 なんのあたいが 邪魔にな あるいな

 そんならけ もうけ あとからけ

 と元氣な聲を張り上げながら、何も食べず、つひに干からびて死んだ。

「こんだ、姉さの墓も出來るんだよネ」
 とふっこが手を合はせながら云ふ。
「あたしの」
 芳キが聞き返すと、
「よかったよかった。これでお墓のないのはあたしだけになった」

posted by ゆふづつ at 00:00| 日記 | 更新情報をチェックする