2010年08月29日

聖田 十七

 やうやう聖田へ着いた。吉野とは寺の入口で別れ、四人で奥津城へ囘った。こないだ來たばかりだが、ここへ來ると、やはり懷しい。先づは美代ちゃの父親の墓へ上がる。湯殿に預けられてゐた遺骨を、母娘が東京へ出たあと、ここへ移したのだ。

 大貫家の宗旨は餘り墓參りをしないさうだが、マヨサはよく聖田へお參りをする。その際、一諸に參拜出來るやうにと、藤サが勸めたものらしい。素直なマヨサはその通りにした。美代ちゃはこの父親に似てゐると言ひ、確かに、子供の頃のふくよかな感じが、マヨサとは又別の顏立ちになった。

 變はらないのは、大きく見開いた澄んだ目と、掻けば血の出さうな柔らかい肌とだらう。と、いつか雪ちゃが言ってゐた。そんな細かいことは知らないが、兎も角も、逢ふ度に大人びて行く美代ちゃが、だんだんと遠退いて行くのは間違ひがない。

 笠掛を出たことのない鐵など、こえたご桶に隱れて眺めるより他に仕方がない。これを無常といふか。その美代ちゃが墓石へ水を掛け、用意の花を手向ける。花は淡色の桔梗。美代ちゃによく似合ふ。あァ、見上げる空が青い。

posted by ゆふづつ at 00:00| 日記 | 更新情報をチェックする