2010年07月29日

しらぬひ 十

 晝食の後、芳江がふっこを連れて羽多岐へ出かけた。用高園のプールへ水浴びに行くと言ふ。何か別の用事があるのかも知れないが、兔も角もふっこを連れ出して呉れるのは有難い。

 背戸から見送ると、縁側の籘椅子へ席を移し、また話が彈む。
「いいお姉さん持って、ふっこちゃんも幸せ」
 と譽めて呉れるから、
「芳キはああ見えても結構優しいのよ。さっきもフィルハーモニックのこと、ちょっと言ってたでせう」

「蛇になるからどうだとか」
「三年生の芳キ達が引退したあとは、二年の友紀子ちゃんて子がマスターになるんだけれど、もう今年のコンクールは落選確實だなんて、前評判が喧しいみたいなのよ」
「なるほどねエ、引退すれば手足がもがれる。それで芳キ一人、カリカリしてるって譯ね」

「もし落選でもしたら、やはり友紀ちゃんぢゃ駄目だ、音樂部なんて廃止だって、さうなるでせう。だから今のうちに廃めといた方がいいと思ふんだけれど、芳キはさう思はないみたいなの」

「私らの頃の音樂部なんて、玩具の笛をふうふう吹いて遊んでただけなのにねエ。その友紀ちゃんって子、小學校の頃から仲良かったんぢゃないの。湯地のお百姓さんの娘ぢゃない」

「さう。ともかくも彼女を後繼者にしようとはりきってるみたいなの、芳キの方は」
 しかし暢気にプールなんか行ったりして、大丈夫なのだらうか。

posted by ゆふづつ at 00:00| 日記 | 更新情報をチェックする