2010年06月30日

ふっこ 二

 みんな歸ったあと、清吉だけ殘った。ちびりちびり飮りながら、
「ふっこねぇ。それでお前、父親のことはどうするんだ。父親が誰であるかは、お前しか知らん。しかし、世の中は誰が父親か決めたがるだらう。いづれこの子も氣にするやうになる」

「分かってゐます。私には父親のない子の氣持は分からないけれど、やっぱりこの子には必要なのかも知れない」
 さうだ、ふっこは福子がいい、雪子は心に決めた。
「私はこの子の父親を追ひ詰めてしまった。死んだあとになってそれがよく分かる。この償ひは一生をかけてしなければならない。この子のためには、どんな辛抱でもしなければならないは」

「しかし、それはお前の胸の中に藏っておくことだ」
「分かってる。この子には本當のことだけを言ふ。裁判にはしたくないは。あの人には自分の子だと分かる筈。それで十分だから」
「ならば、それでいい。人はみなお前が思ふほど強くはない。弱いのはお前だけぢゃない。何もかも一人で背負い込んだら辛くなる。これからは藤サや邊サに頼ればいい。お前もそのつもりでゐるんだらう」

「サヨサの奧樣が亡くなる少し前、お葉書を戴いたことがあるの。桃の實が生ったから見に來いと。その頃は色々と惡い噂を流されてゐたし、桃は鬼女を退治する實だから、てっきり恨み事を言って來たと思ったの」

 雪子は當らず觸らずの返事を書いたが、あれこれと思ひ惱んだ揚げ句、つひに退職の意思を固めた。するとサヨサから二通目の便りが來た。やはり桃の實のことが書いてあった。

posted by ゆふづつ at 00:00| 日記 | 更新情報をチェックする