2010年04月28日

檜扇 十六

 日曜日、瑶代の言ふ三日が經ったが、美代子はまだ寢てゐる。厠へ行くのを見ると、赤いブツブツが消え、おかめちんこも治ってゐる。鐵は東の格子窗から覗き込んで、「早く出て來い。卵、五つになってるぞ」美代子は布團の中から「六つになったら、いくぞえ」と掠れ聲を出した。

 晝頃、離れへ藤三郎が來た。美代子がゐないのに氣附き、「美代ちゃはどこぢゃ」と納戸の戸を叩くが返事が無い。ガラッと戸を開け、上掛けを剥いで、「假病つかふとは太ぇをな子ぞら」美代子はきゃっと丸まったが、藤三郎は赦さず、「こえたごぼうでへっくらけぇすぞ」美代子、堪らず土間へ降り、圍爐裏の板敷へ轉がり込んだ。

 二人が入ると晝飯も賑やかになったが、藤三郎は新香の茶漬けを掻き込み、
「あとで聖田へ行って來るは。明日は歸るから、マヨサ頼んだよ」「奧さ、歸られるずか」と美代子。「なるべくなぁ」と藤三郎、忙しげに飛び出した。

 瑶代も忙しい。久代のゐぬ間に大仕事を片附ける氣か、母屋の竹垣を編み直し、庭木の剪り揃へ、何時の間にか厠の戸も附いてゐる。美代子には、「風呂の湯、入れ替へろ」と。鐵も手傳ひ、芳江も加はった。

 先づは水を抜き、洗ひ場と湯船を擦り上げる。次に水を汲んで滿たすが、井戸は庭の南隅にあり、手押しポンプで汲まなければならない。手桶に「三十杯、いや百杯、三人で二時間もかかるよ」と芳江が音を上げた。湯船半ば、ポンプの芳江がくたばり、えっちらと水桶を運ぶ美代子も腰碎け。「けばいつかうとは太えをなごぞら」大威張りの鐵も足を滑らせて轉んだ。

posted by ゆふづつ at 00:00| 日記 | 更新情報をチェックする