2010年03月29日

かんな 七

 全員、西の部屋へ移った。テープレコーダーの音は、自分の聲だけ妙に甲高く薄っぺらに聽こえる。久代も子供のやうに囀ってゐるのが自分だと氣附き、がっかりした。

 機械は西側の棚に置かれた。よく見ると、窓の前はピアノを置くのにぴったり。さらに眺めると、部屋全體がピアノを置くために造られたやうにさへ見える。ただし、いづれピアノが置かれる筈の牀には、わざとらしくトランプまで置かれてゐる。

 藤三郎の芝居、續く。
「おや、何だ、こんなところに妙なものがあるぢゃないか」
 と五人が寄るのを待ち、
「久代は九つで角一本」
 両拳の片方、親指だけ立てて見せ、
「ぢゃ、美代ちゃは、いくつだ」
 と、上田家恆例の謎掛けが始まる。

「よっつ」
「なぜ」
「ひーふーは翔んでけ、私は、みーよー」
「ぢゃ、來年はどうなる」
「いー」

「マヨサは、いくつだ」
「拳固で十」と握り拳、ふたっつ。
「なるほど、いつも戸締り、御苦勞さ」

「さて、鐵坊は、いくつだ」
「知らん」
 しかし美代子に耳打ちされ、
「侍だから、じふいち」
「なるほど、マメの氣だな」

「ぢゃ、芳きは」
「話が始まらない、角が十本」
 と両手で萬歳。
「なるほど芳きは冗談だったか」
 大人たちの笑ひ轉ける間、切った振りをして、
「久代、エースからキングまで、數を全部足すと、いくつだっけ」
「えぇと、一、二、三」と指折り數へ、「九九が十増え、九十一になりましたよ」

「願ひましては、マヨサ、カード全部、〆て幾らなり」
 乞はれた瑶代は珠算へ、
「冗談を入れまして、ちゃうど三百六十五になりました」
 カードが配られ、ばば抜きに入るが、いきなり鐵が上がり、殘った美代子が芳江から、芳江が瑶代から、瑶代が久代から取って順に上がり、最後にばばを取った藤三郎が負けた。

posted by ゆふづつ at 00:00| 日記 | 更新情報をチェックする