2012年10月28日

バケモン

 人間以外のものになりたくない。しかしむつかしいな。人間になるのは

  おい、をとこをんな

 をとこをんなだと。もう少しいい名前で呼べ。男みたいな女なのか。男の女みたいなのか。どっちなんだ

 こら、きこえんか

 と耳たぶをつかんでひっぱりやがる。いてんだよ、このやろー

 と思ひっきり足の甲を踏んづけてやる。どーだ、まゐったか

 なにすんだ。これでも喰らえ。と後ろから突き飛ばされた。向かうは三人がかりだから、手足を出せばこっちが痛くなる。しまひには髮の毛を摑まれたから、その手に齧りついてやった

 ぎゃぁ〜っと、手にしてゐる竹竿を投げ出し、をとこ三人が逃げ出した

 バケモン。シヅのバケモン。おぼえてろ

 やっぱ、むずかしいな。靜は靜のままでは、バケモンだ



posted by ゆふづつ at 00:00| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする

2012年10月27日

 來年、あんた、いつつか

 シルベスタは?

 なに、それ。あたしの名前は一。カツって呼んでよ

 カツは、いくつだ

 カツはねぇ、先月で二十一だよ

 おとなだねぇ

 おとなか。女は女になったとき、おとなになるんだよ。つぎに、子を生んだとき、また女になる。子がおとなになれば、あとはばあになる。まぁ人生の附録みたいなもんだ

 どうすれば、女になるんだ

 さぁねぇ。あんたはからだが大きいから、すぐになれるかも知れない。ただ、素直にしな。靜は靜以外のものになれりゃしない。無理に別のものになるより、しっかり食べて、からだを丈夫にして、色々なことを考へれば、立派な女になれる。人間は自分以外のものにはなれない

 あたいも人間以外のものにならない

 さう。さういふ風に素直なのがいい。さぁ寢るよ。おやすみ




posted by ゆふづつ at 00:00| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする

2012年10月26日

故郷

 シルベスタは朝店に出、そのまま配達に出ることもあるし、いったん家に歸ることもある。いづれにせよその日の仕事は社長次第。たまに朝から用事のないこともある

 そんなときはぺらぺらとおしゃべりで過ごす。箪笥の上のラヂオから好きな曲が流れると、シルベスタも歌ひ出すことがある。とくにお富さんが鳴ると

 え、ごしんぞさんへ、おかみさんへ、お富さんへ、いやさ、これ、お富、久しぶりだなぁ、さういふお前は、よさぶらうだ

 と、目をひん剥いて、足掻いたやうな振りをする。笑はないと可哀さうだから笑ってやると、シルベスタも吹き出し、しまひには二人で腹が捩れるほど笑ふ。知らない者が見たら氣が狂ったと思ふだらう

 ねぇねぇ炬燵掘らうよ

 ほんと、寒いねぇ

 故郷でも思ひ出すか。シルベスタは細い目で天井を見上げた




posted by ゆふづつ at 00:00| ノンカテゴリー | 更新情報をチェックする