2012年09月30日

三つ子の魂

 さうなると、タケも父親の清兵衞に頼らざるを得ない。取り敢へずは、まだ三歳だった靜を父親に頼んだ。

 父親は相變はらず色々な事業に手を出してゐたが、後援してゐた繪描きが入賞し、手持ちの繪畫を賣るだけで相當な利益を得た。それを元手に今度は川練へ歸り、むかし潰した製靴屋を再開してゐた。

 ただ、手のかかる靜を引き取るのは、靜自身の爲にも宜しくないと思はれ、自分の姉の家に預けることにした。それが聖田の三田といふ家で、清兵衛の姉のヨシといふのが獨り暮らしをしてゐた。

 ヨシは羽多高の教諭だった人で、生涯獨身、定年後に聖田の舊家を手に入れ、餘生を送らうとしてゐた。靜の養育を頼まれたものの、靜が靜だから、かなり手を燒いたらしい。



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2012年09月29日

トウバクロウゼ

 そもそも靜さんがこの笠掛へ來たのも複雑な事情があるやうだね。

 その邊も俺は聞いたことが無い。何だか聖田に遠い親戚がゐるやうな話は人から聞いたことがあるが、その親戚が俺の曾祖母だといふ話もあって、よく分からない。もちろんお袋に聞いたこともない。

 靜さんにすれば、きっと辛い生立ちがあるんだらうね。單に貧しいといふだけぢゃなくて。

 ともかくも市川の八百屋に住み込んでゐたタケは、無事に靜を生んだ。この父親が留造であることは狀況上間違ひがない。留造も、何度かタケの行方を探し、靜の引き取りを申し出たさうだが、タケは頭を縦に振らなかった。彼女には娘が自分の分身のやうなものだったね。

 だからタケが結核を發症したのは、本人にとっても、娘靜にとっても、本當に酷過ぎる現實だった。そもそもタケの母親自身、若くして結核で亡くなってゐるから、もう少し氣をつけるべきだったんだらうが、だんだん咳が激しくなって來る迄、無理を續けたのが祟った。

 店の主人も氣附くほど症狀が惡くなってから、やうやく醫師の診斷を受け、直ぐに病棟へ移されたんだ。さういふ話を聞くと、直ぐ自己責任だ、自分の不注意だといふ人がゐるけど、他の生き方がしたくても出來なかったタケには反論の餘地がない。




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2012年09月28日

毛物

 喧嘩って、どんな。

 確かに見た目には喧嘩なんだが、その實態は一人相撲と言った方がいいかな。あのお袋、酒癖が惡い。親父はいくら飮んでも平氣なんだが、お袋がそれに附き合ふと大變なことになる。

 親父もそれが分かってるから、餘り飮むなとは言ふのだが、偶に飮み過ぎて手がつけられなくなる。初めはゲラゲラ笑ったり、普段とは違っておしゃべりになるだけだが、それが昂じると怒りに變はり、Kい顏が青くなるともう駄目だ。人格が變はっちゃふ。

 といふか眞の人格が出ると言ふべきか。親父に飛びかかって羽交ひ絞めにする。まるで何かが乘り移ったみたい、地べたに平れ伏して睨み上げる、唸る。平素の我慢が全部解放される時間なんだらうね。

 圍爐裏の火に手で觸れて大暴れする、縁側に出てワンワンと泣く。親父も本當はどこかへ逃げたかったんだらうが、無視すると餘計に暴れるから、お袋が眠っちまふまで適當にあしらふしかない。



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