2012年05月19日

おさる

「人間は木から降りたお猿さんなんだ。氣がついたら荒れ野の中にゐて、狼や虎が怖くて仕方がない。木の實も轉がってやしないし。

 それで集團で徒黨を組み、手には弓や槍を持った。それが言葉と道具だ。人類の二つの寶は、人類をあっといふ間に百千のケダモノの王者にした。が、同時にこの二つが大いなる持て惱み草にもなった。口喧嘩と戰爭と。

 それでも人が素直だった時代は死んだ後の亊まで説明する阿呆もをらず、人が死ねば見えない地下の國へ往くのを悲しむ他もなかった。

 ところが異國の文明といふものが出來、小賢しい聖人哲人の類が出て來た。おのが了見の思ひつきを、さも見て來たやうに説き明かした。

 例へば、惡者は滅び、善人は榮えるといふ。しかし。世の中をまともに見れば、惡の蔓延ることあり、善人のつひに滅びることもなきにしもあらず。

 結局、因果應報といふのも、勝者が自己を正當化する爲の屁理屈に他ならない。人間、うそは放かず、眞っ直ぐに生きたいとは思はないのか?」



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2012年05月18日

智慧

「俺がいつ智慧なんぞつけたんだ?自慢ぢゃないが、確かに小學校にも中學校にも通ったことがあるが、先生の授業なんか眞面目に聞いたことがないよ。

 ふふん勝手な理屈言ってがやるぐらゐにしか思ったことはない。お前と一緒にしてくれるな」

「へぇ、言ったね。そんなことが自慢になるか。お前さんこそひねくれてるぢゃないか。なぜ素直に先生の言ふことが聞けないんだ?」

「それはお前みたいな馬鹿が異國の風俗に染まるから、この心素直な俺までひねくれ者に見えるんだろ。人が死んだらどうなるが聞いてあきれる。人なんか毎日何百萬人も死んでゐるんだ。死んだらどうなるかぐらゐ子供にでも分かる。

 それをご苦勞さんに、死んだあとの理屈まであれこれと想像するほど、俺は暇人ぢゃねんだよ。分かったか。分かったらおとつひ來やがれってんだ」



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2012年05月17日

ヘブン

「その、今日から馬鹿になって生きる、といふのもどうかと思ふ。馬鹿も利口も自分でしか生きられないだろ。

 日本人は5世紀を境に大きく變はった。利口が馬鹿になり、馬鹿が利口になったりとね。さっきの話のついでに言ふと、人が死ねば、この世を離れ、もう二度と戻って來ないだらう。泣いても笑ってもな。この世に死ぬほど悲しいことはないのに、何?死は天に召されることだから悲しくないだと?

 また人の罪なることを悔い改めれば、天國に行けますだと?因果應報の原理により、惡しき行ひを爲せば地獄へ落ちるだと?

 どうして、さうひねくれたことを考へるのか。百歩讓って、もし確かにさうならば、狼に育てられた人間はどこからさういふ智慧を仕入れたらいい?」

「狼に育てられたら、神を冒瀆しないのだから、そのまま天國へ行けるんだよ」

「ぢゃあとっとと學校なんか廃止して、狼學校でも作れ」

「今更そんな馬鹿な學校が作れるか。智慧を身に着けた人間は、普通の方法ぢゃ天國へ行けないんだよ」

「確かに。智慧をつけた人間が狂ったのはさうだらうが、この世には人に育てられても素直な人間はゐる。どうしてその連中まで普通の方法ぢゃ天國とやらへ行けないんだ?」

「やはり智慧をつけ、善惡を知った上で神を認めないからだろ?」



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