2012年01月19日

嫉妬

「そりゃさうだらう。かう見えて、私も昔は夫を愛したことがある。隨分色々な男に投資した揚げ句、やうやく捕まへた男だったからね。生活力はなかったけれど、私が働いて養ってゐた」

「その養ってゐたといふ言ひ方が失敗の因だろ。養ふってのは子どもや病人、家畜なんかをきちんとさせることを云ふんだよ」

「さうだよ。惡かったね。でも養ってゐたんだ。しかし、そいつ。いつの間にか勉強したんだらうね。あるとき、漫畫を書き出して、そこそこ賣れるやうになった。そのうち、夜も寢られないやうに忙しくなって、ちょっと集中したいからなんて云ってね、近くにマンションを借りて、そこで生活するやうになった。

 まぁ、それはいいんだけど、やっぱり編輯者の若いネェちゃんが出入りするは、講演會に引っ張り出されるはで、顏を觀る度に遠い人になっちゃってさ。これはもう一緒に死ぬか、あっさり分かれるか、どっちかにするしかないと思った。

 それであるとき酒を飮まして、ぐっすり寢込んでゐるときに首に手を掛けたの。かう見えても私は柔道部だからね。それで殺して私もマンションから飛び降りようと思った」




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2012年01月18日

ダブルスタンダード

「といふ譯だから。好子は、その戀の相手を、人を押し退けてでも手に入れようとする。それこそ、産めよ殖やせよ、地に滿ちよといふ、人間が造られた目的に添ってゐるのかも知れない。

 そして好子は、戀の相手を自分の思ふがままに操りたがるだらう。これは戀する者に例外のない欲望なのだ。

 もし、相手が自分より優れた美點でも見せようものなら、強い反感を持ち、その美點を帳消しにするあらゆる手段を講じるだらう。世の主婦族が亭主に生かさず殺さずの小遣ひしか渡さず、世の亭主族が妻のイケメン好みを嫌ふのはその爲である。

 或は逆にまた。男は彼女が自分より馬鹿であることに正直ほっとし、女は彼氏の氣の小さいことを魅力の一つにしたがるのだ。

 ところが、どんな女もまた。自分と關はりのない男がケチケチと濕けてゐるのは好まず、どんな男もまた、不細工な男に騙されてばかりゐる女を嘲笑ふ。

 或は逆にまた。誰も自分より愚かで卑怯な代議士を選ぶことはない。この異樣な二重性格こそ、戀に陥った者達の病氣なのである」



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2012年01月17日

ニイハオ

「そのあんたの言ふ好子だの永子だのと言ふのは、多かれ少なかれ我々の心の内に二人とも住んでゐることには注意しておかうよ。

 つまり。我々の内には、第九を聽いて感動する我と、欲望のままに我を忘れるエスが同居してゐるといふことだ。そのフロイトとかいふ男の言ふエスとユーベルイヒが一つ家に住んでゐるのが我々の心といふものなのだ。

 人類が結婚といふ制度を考へ出したのも、おそらくはこの二人の間の平和條約を結ばせる爲なんだらうが、最後まで遵られる條約は無いやうに、しばしば結婚が建前だけになってゐる現實を見逃してはなるまい」

「つまり。心の中の好子が勝ちを占めた場合は浮氣者だとかスキャンダルの帝王だとか破綻の総合商社だとか呼ばれる譯だらう。また永子が勝ちををさめれば、鴛鴦夫婦だとかナイスカップルだとか云はれるんだらう」

「では。その心の内の好子が勝ちを占めた場合を考へてみようか。心はその欲するままに進み、全ての分别をかなぐり棄て、みづからが滿たされるやう、あらゆる力を用ゐるであらう。個人は自分が少しでも魅力的であらうと、豐かで賢く、健康であるやうに見せかけるだらう。

 社會もまた、その富を無限に集める爲に、自分以外の全てを無慈悲に扱ひ、敵對するものを最大限に殺し、それを政治の成功と呼ぶだらう。なぜならば、永子の要求は結局、我々の欲望に何がしかの我慢を強ひるものに他ならないからだ」



posted by ゆふづつ at 00:00| 日記 | 更新情報をチェックする

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