2012年01月22日

魅力

「實はこの俺にも、若い頃のほろ苦い思ひ出がある」

「安物のコーヒーでも飮んでゐたのかい」

「さうぢゃなくて。俺は初戀を含め、若い頃に何人かの女に惚れ込んだことがあるのだが、今考へると普通の趣味ぢゃなかった」

「やっぱり?」

「例へば、いつもクラスの隅でポツンと項垂れてゐるやうな子。誰も友達がをらず、成績も下から數へた方が遥かに早い。たいていは鼻が紅葉饅頭のやうであったり、唇がすり切れた赤い鼻緒のやうであったり」

「面白い喩へだね」

「もう少し大人になって、現實的な欲望に苛まれる頃になっても、まづ羽振りのよささうな、見榮えの好い女は眼中に入らず、てっとり早く獨占出來さうなのばかり追ひ駈けてゐた」

「例へば?」

「親に見捨てられ、貢いだ男に裏切られ、ボロボロの紙くずのやうになって、寒風に煽られてゐるやうな女」

「ふぅん。それで自分は女を助けたやな氣になってゐた譯だ。しかし、そんな女、獨り占めにして、何が樂しんだい?」

「世の中、役に立たない物ほど、惹きつけるものを持ってゐるのさ。さうぢゃなくちゃ、この世の中、屑みたいなものはみんな滅びちゃってるだろ?」



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2012年01月21日

堕落

「まぁ、今の世の中を見囘して御覽よ。尋常の頭の人の中味は少しも見えて來ないが、欲望と嫉妬、憎惡に狂った奴らの口臭が滿ち溢れてゐるだらうが」

「今の世の中って、あの世のことだね?あぁよかった。お前さんのさういふ汚い言葉使ひ。もしあの世に聞こえたら大變だよ。大臣なら首がいくつあっても足らないんだから」

「平氣だよ。こっちは聞く耳などあるもんか。要するにここで俺の言ひたい亊は。嘗てのお前さんのやうに、人を心のままに動かさうと企む連中は、すべて、重大な危機に際して、周りの敵に微笑を振り撒き、自分の周りを危險に陥れようとする。さういふことさ」

「なぜ、戀ひする者が、そんな自殺行爲をするのかね?」

「それは。欲情が心の天秤を傾かせ、すべての衡平な判斷を狂はせるからだらう。ちゃうど耳を感染症でやられた鯨が方向感覺を失ひ、濱邊に打ち上げられるやうに。或は何かの神が、人減らしの爲に、人間を戰爭やその他の災害に引き込まうとしてゐるのかも知れない。

 それは俺もよく分からないが、ともかくも。戀に狂った連中は、ともかくも滿たされない欲望をみたす爲に、周圍を卷き込み、沈み込んで行くもんなんだよ。間違ひない」 




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2012年01月20日

「で、お前さんの武勇傅はどうでもいいが。要するに、あんたは、夫が華々しい活躍をすることに嫉妬し、まるで飼犬でも飼ふやうに、家に繋いでおきたかった譯だ。

 あんたは、夫が手の届かないところへ行くのを防ぐ爲に、夫を無價値とみなして放かすか、それとも一緒に地の底へ潜らうとした譯だらう。大した玉だよ。

 しかし、ここで假に、運良く、その夫とやらの漫畫が賣れなかったとしよう。奴さん、黴の生えたやうなマンションで、あんたの入れる錢金だけを頼りに、愛欲の生活を送って行く譯だ。

 そして、あんたのやうに、性欲のみに生きる狒狒女は、軟弱な男を好むだらう。毛のない、胸の薄い、もやしのやうにひょろひょろした、あそこだけが異樣にもっこりした、太陽に似つかはしくなく、青白く、時に妖しげな藥を吸ひ、女の前で啜り泣いて見せる。さういふ男が好みなんだな?

 さうして自らは何も作らない癖に、他人の長所の裏面を暴き、政府の惡口を言ひ過ぎる爲に、齒醫者の矯正が必要なほど出っ齒になり、自分の故郷を呪ひ、親に盾突き、天に唾するんだろ?

 要するに。自らの寄生先であるこの世を引きずり落とし、自分たちも一端であるやうに見せかける爲、自ら毒を振りまいてゐることにも氣附いてゐない譯だ。さうだな?」



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