2012年01月25日

カタストロフ

「お前さんもなかなか苦勞したんだねぇ。まぁ見た目もさうなんだけれど」

「あんたの云ふやうに、人は多かれ少なかれ寂しいもんだから、知らず知らず自分にはきっと理想の相手がゐると思ひ込んで安心するんだらう。

 しかし、假に自分と瓜二つにそっくりな相手、早い話が一卵性双生児の相方みたいなのを見つけ出しても、それは戀ぢゃねぇやうな氣がする。つまり戀といふのは多かれ少なかれ自分とは違ふ相手を選ぶことにむしろ意義がある譯だ。ここに戀といふものに内在する危險性のやうなものがあるね。

 しかも、ただ自分と違ふだけの相手なら程々の間合を置いて附き合へばいい譯だが、戀ひする相手となれば、もし許されれるなら二十四時間、籠の中にでも入れておき、監視しておきたいぐらゐなものだらう。

 だから、戀に附きものの二つ、カラスと白鳥をくっつけるミスマッチ、互ひに相手を縛り逢はうとする接着性。これで破局しない方がをかしいとさへ言へるだらう。

 そして戀といふものは、その性質上、いつまでも續くものではないから、それが冷めたとき、今までの苦勞が全て相手に對する憎悪の種となり、激しい報復と破壞を生み出すだらう」

「あぁ怖い。戀ひが冷めたとき、今までの戀人が見せる醜い顏。笑窪が痘痕に化け、八重齒が牙に變はる。そして戀ひの狂氣が冷めた代はり、現實的な打算ばかりが心を占めるやうになるのよ。さぁ、語って御覽」



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2012年01月24日

便法

「まぁあんたのモテ話はいいからさ、それでその彼女とはどうして別れたの」

「おい、いきなりそこへ話が飛ぶのかよ」

「まぁだいたいの見當はつくからさ。さういふ、大した理由もなく人に惚れる女ってのは、自分でも分からない心の闇を抱へてゐるものさ。いづれにせよ、あんたも一時の快樂と引換に、その何百倍もの代償を拂はされたんだろ。

 だいたい、男と女が一緒にゐること自體が好くない譯だはさ。その女とは偶に逢ふだけか、同棲したのかは知らないけれど。逢へば逢ふほど、あんたも嫌な思ひをしたに決まってゐる。

 男女關係だけぢゃなく、そもそも人間なんてみんな一人ぼっちのものだから。それが淋しいといふ理由だけでくっつくのだから旨く行く筈がない。
 
 しかも女なんて、最初の一囘で興味半減どころか幻滅がいいとこだらう。そんでどうした?」

「人間關係なんか、嫌だと思ったらパッと別れちゃへばいいと、さういふ法律を作ってくれたら、世の中、もう少し暮らしやすくなるんだがなぁ?」



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2012年01月23日

誑し込み

「ところが。こんな俺でも、惚れられることがある。昔、暫く勤めてゐた會社を辭め、獨立しようと思ったことがあるんだ。

 それまでの仲間が送別會を開いてくれて。一次會、二次會と進み、最期は居酒屋みたいなところで三人だけ殘った。直屬の上司だった男と、若い事務員の娘。

 その子とは特に親しい間柄でもなかったが、さう醉った風でもないのに、なかなか歸らうとしない。上司だった男は、何か話があるやうだったが、明日も仕事があるからと先に歸った」

「よくあるパターンぢゃないか。偶然の一致が必然になる。縁は異なもの、みたいな?」

「踏ん切りのつかないのが俺の惡い癖だ。しかし若い子とさう話が續く譯でもなし。暫くして店を出た。その子の家は直ぐ近くにあるらしいが、こっちはもう電車がないから、

『ぢゃね、今日はありがたう』
 と、そこで別れ、タクシーでも拾はうと驛の方角を歩くのに、づっと隨いて來るんだよ。

 しかも二月の寒い夜で、こっちの腕を両腕で引っつ摑み、顏を肩に寄せて來るんだ」

「おやおや。乘せられちゃったね?」



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