2011年11月24日

努力家

「幽靈の 正體見たり 枯れ尾花」といふ言葉があるが、なぜ枯れ尾花が幽靈に見えたのか、眞面目に考へる人は少ない。

「しかし、パイドロスよ、僕の考へを言はう」とソクラテスは云ふ。

「幽靈もよく見ればただの枯れ尾花だ、と云ふ納得の仕方は、確かに種明かしとしては面白いだらうけれど、よっぽど頭の良い努力家でないと出來ない種明かしだ。しかも、さういふ種明かしをする人が、奥さんと上手くやって行けてるのか、他人ごとながら僕には心配で堪らない。

 なぜかって?だって、その人はこの世の上手く説明出來ないことはすべて旨く丸め込まないと氣がすまないのだから、イハレビコ(神武天皇)の命が百三十七歳迄も生き給ふたのは、天皇の歴史を長く見せかける爲に後から架空された人物だからだとでも云ふのだらう。

 しかし、その「偽造された神話」によると、ニニギの命が日向に降臨され、その曾孫の神武天皇が即位する迄に179万2470以上の年月が流れてゐる。もし天皇の歴史を長引かせる理由が天皇を權威づける爲であるとするなら、なぜ、こんな「無茶な長引かせ方」をする必要があるのか。

 これに對しては、古事記を「捏造」した頃は、人間も素直過ぎたから、有り得ない年月の長さに畏れ入ったのだらう、とでも云ふのか。

 しかし、その「馬鹿な七世紀の日本人」が、たかだた千數百年の間に、なぜ「文明人の知能に追ひつくほど」進化したのだらうか。疑問はいよいよ膨らんで行くのだ。なまじの説明は頭の惡い我々を餘計に混亂させてくれる。




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2011年11月23日

アレゴリ

 この世に神話を持たない文明はないだらう。アメリカ合衆國のやうに新しい國ですら、獨立宣言なる神話を持ってゐる。但し日本のやうに古い國の神話とは異なり、誰がどのやうにして書いたか、比較的によく分かってゐるやうに思はれてゐる。

 しかし肝心の日本の神話については殆ど讀まれてゐない。もちろん海幸山幸の物語とか、スサノヲのヤマタノヲロチ退治とか、因幡の白兎だとか、斷片的には知られてゐるが、これはもう小學校低學年程度の話に思はれてゐるだらう。

 かういふ風に自國の神話を疎かにするのはインテリの通弊といふべく、今に始まった話ではない。我國でもすでに平安時代には神話が荒唐無稽の話だと觀られてゐた筈である。外國でも、無論、さうである。

 プラトンの創作した人物、パイドロスがソクラテスにかう尋ねる。 
「冬を運んで來る北風の神ボレアスは、イリソス河の邊で踊ってゐたアテネの王女オレイテユイアを雲の上に吹き上げ、トラキアまで拐ったといふ神話がありますが、ソクラテスよ、ゼウスにかけて、正直に言って下さい。あなたはこの神話を本當にあった話だと信じてゐるのですか?」

「そんな馬鹿な話を信じるものか。と僕が言へば君も安心してくれるのか。そして僕が如何にも賢そうに、そりゃ王女が川邊の泉で踊ってゐたら、ボレアスといふ名の北風が吹いただけだよ。それをそんな風に言へば面白くもないから、だんだん話に尾ひれがついて、風が神になり、泉がニンフになったんだらう。とでも解説すれば、常識人の仲間に入れて貰へるかも知れない」



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2011年11月22日

大八洲

 サミュエル・P・ハンティントンは、文化的なまとまりとしての文明を、儒教、 ヒンドゥー、イスラム、東方正教會、西歐、ラテンアメリカ、アフリカ、そして日本に分類した。

 しかし、彼の分類によると、日本以外の文明はいづれも複數の國家群に跨がるが、日本だけは孤立した文明だとする。

 一方で彼は、どの主要文明にも屬さない孤立國といふものを考へてゐるやうである。

 日本が孤立しながら、なほ主要文明を形成すると考へるのは、近くに儒教文明といふ巨大な文明がありながら、日本だけがこれと著しい對照を爲し、むしろある一面では地理的に離れた英國や獨逸にも似た一面を持ちながら、なほ西歐とも違ふ特殊性を持つからであらう。

 だが、日本だけが孤立した特殊性を有する理由については、合理的な説明は難しい。強ひて言へば、七世紀ぐらゐ迄の朝鮮半島南部、とくに百濟は日本文明に似てゐたのに、その後は儒教文明に馴染んでしまった。島國である日本だけが殘った。

 しかしそれだけでは、エチオピアやモンゴル、チベットやタイが他の文明圏に屬さず、しかも獨自の文明圏とは考へられてゐないことの説明が出來ない。やはり日本の特殊性は、この大八洲といふ地に住まひ、古からの傳へがいまなほ生きてゐるからだと思はざるを得ない。

 日本の地には儒教も佛教も、キリスト教も、そのままの形では入り得なかった。知識人を除いては。



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