2011年11月27日

二神

「それで、結局、神話とは何なのだ」

「人の體に背骨があるやうに、神話とは人の心の據所のやうなものだと思ふ」

「その心の背骨は神話ぢゃなくてはならないのか」

「さうだ。俺は佛教徒ではないが、この場合は他力本願といふ言葉を使ってみたい氣がする。人が自分でどんなに工夫と努力を積み重ねてみても、けして背骨など作ることは出來ない。同樣にして心の背骨も作ることは出來ない」

「その神話は日本に獨特なもの、つまり日本にしか適用されない類のものなのか」

「そらぁ日本の神話は日本語だからまづ外國人には分かり難いものだ。我々が聖書を讀むと、細かい意味が讀みとれず、苛々するのと同樣、外國人には分からないだらう。ただ、日本神話の核心的な部分を抽象的に理解することは出來るだらう」

「その核心的な部分とは何だ」

「今、我々が見てゐる事物の全ては、ことごとくタカミムスビの迦微、カミムスビの迦微の二柱の迦微から出てゐるといふことだ」

「それは神學理論のやうなものかな」

「違ふな。これは古事記に書いてあることを短く言っただけで、なぜ一神ぢゃなく、二神なのか、この二神は何か目的のやうな物を持つのかなど、一切の説明がない。我々の思考を拒絶してゐるやうなのだ」




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2011年11月26日

ミス

「色々な國に神話があるのは分かった。それで、日本の神話には何か特殊性でもあるのかな」

「その神話といふ言葉がそもそも宜しくない。神話といふのは、ある部族や民族に傳はる、樣々な事象の起源や存在理由に關する傳承を云ふ譯だが、今はその傳承の拘束力の範囲から抜け出た人々が、根據もなしに絶對的眞實として扱はれるものを批判的に言ふ場合に用ゐる場合が多い。

 いはく、戰前の日本は天皇を神の子とする創世神話により、國民を盲目的な戰爭に驅り立てた、云々。

 國家が戰爭をする場合に、あらゆるプロパガンダを利用するのは當り前のことであり、政治が民意を意識する國家ほど、このプロパガンダが喧しいのが普通だ。アメリカやイギリスほど敵國を悪魔の如く罵る國も珍しいだらう。

 ヒトラーも選擧で選ばれた政治家に過ぎず、國民を戰爭に引っ張るには樣々な宣傳が必要不可欠だったに過ぎない。

 戰前の日本も所謂皇國史觀を教育宣傳に用ゐたことは確かだが、實際に前線で最も激しく戰った將兵に皇國史觀など信奉してゐた者は殆んどゐない。

 とは言へ、さうした將兵が何の爲に戰ったは問題だらう。彼らが自分の肉親や郷土の爲に戰ったといふ説明も十分ではない。例へば特攻隊員の多くは日本の敗戰が近いのを知ってゐた。家族の爲を思ふだけなら、たとひ卑怯者の汚名を着せられても生き殘る道を選んだ方がよい。

 しかし現實には老いた母を殘し、或は若い妻と未成年の子を殘して行った者も少なくない。半ば強制されたといふ考へもあるが、特攻作戰の場合は、ことの性質上強制といふのは難しい。特攻隊員は嚴しい適性テストと、激しい訓練を經た後に選ばれる、ほんの一握りのエリート達なのである。

 彼らの多くは、米國が僅かでも譲歩するのを期待しつつ、或は祖國の敗亡を前に保身を圖ることを拒み、激しい煩悶の中で敢へて死を選んだのだ。

 その心の底には、現實の家族や親しい者の生命や財産を守るといった目的を超えた、一種の運命共同體の一員としての意識があったことは確かである。




  
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2011年11月24日

大世話

 ソクラテスは更に云ふ。

「かうして次々に襲ひかかって來る奇妙な話に、いちいち現代風の小理屈をつけ、尤もらしい脚色を施して行くと!しまひには身の周りのちょっとしたをかしな亊、例へばちゃんと穿いたパンツの裏表がいつの間にか逆になってゐることなど、いちいち女房に言譯するやうな男になるのぢゃあるまいか?

 しかし人生、そんなつまらないことに使ふ時間はあるだらうか。例へば僕は本當の僕のことを知らない。僕はどちらかといふと美男子とは言へないが、僕がなぜこんなヘンテコリンな顏に生まれ合わせたのか。神樣にでも聞いてみたいぐらゐなのだ。

 僕はそれが分かるまで、例へば君の顏がなぜエノキ茸に似てゐるかを説明するのは餘計なお世話だと思ってゐる。

 だから僕は昔から言ひ傳へられたことは、たとひ納得が出來なくても、その納得が出來ない自分自身が、果たして神話に出て來るスサノヲの命よりも理性的な人間であるか、正しい判斷力を持った人間なのか、この世の物をすべて正しく見る資格のある男なのかどうか。

 それともまるで醜悪な偏見に滿ちた傲岸不遜な男であるのか、はたまた自分でも想像のつかない別の者であるのか、それを見極めない内は、安心して君の顏に化粧を施さうとは思はないのだ」




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