2011年08月22日

狹き門

 とりとめもない話をしてゐる内、ついうつらうつら。再び目が覺めたときは、地平がうっすらと赤みを帶びてゐた。

 懷かしいな。ここにも日が昇って來るのか。もしさうなら、確かに。あの世とは地續きであることが分かる。

 しかし夕べ浮いてゐたシャボン玉みたいな連中が見えない。どこへ行っちまったんだらうか。少し寂しいが、しかし、いづれ陸なことにはなりさうもなかったから、この方がいいかも知れぬ。

 えーと。もしもし。例のアレもゐないのか。

 本當にゐないやうだな。しかしアレがゐないと、心細いね。いつの間にか開けた森のやうなところに出、しかも、あらうことか、自分の足が南蠻歩きをしてゐる。しかし足を止めると、何だかむず痒くなって、居たたまれない。ともかくも足の向く方角へ歩いて行くと、何か入り口のやうなものが見えた。

 狭き門。といふのか。左右に巨大な門柱が立ち、その向かうに道が。稍くねりながら奥へ通じてゐる。
と、

「お前か、俺に用があるといふ奴は」
 といふ聲が降って來た。



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2011年08月21日

黄泉

「ところで折角こっちへ來たんだ。しばらく樂しんでみたらどうだ」

 樂しみ?この世にそんなものがあるのか。

「お前もこっちへ來たから分かるだらうが、この世もあの世も地續きなんだな。互ひに簡單には往き來出來ないだけで、中身は大して違はないとも言へる」

 うーん。さういや、そんな氣もする。ときどき本當に死んだのか?夢でも見てるんぢゃないかと思ふことがある。

「さうだろ。ただ夢の場合は、自分が夢を觀てゐるかどうか餘り疑ふことはないし、假に疑っても確かめて見て、あっ、夢ぢゃないんだ、と納得することもないだらう」

 さうだな。確かに。今、見てゐるのが夢だとは思はれない。しかし昨日まで生きてゐた世界と同じでないことも確かなやうだ。ところで、あっちの地圖にはこっちの世界が載ってゐないが、こっちの地圖にはあっちの世界が載ってゐるのかな。

「載ってないよね。てか、地圖ってのは、コドモが布團に描くものだろ。むろんテレビで觀ることは出來るが、それも本當にあっちの世界が映ってゐるとは限らない。もしこっちからあっちが見えるのなら、こっちもあっちもない。何の境もないただの地續き。物理的距離の問題になっちゃふよね」



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2011年08月20日

バッタ

 やがてそのまま日が暮れてしまったのであらうか。邊りが眞っ暗になった。音も聽こえず、匂ひもない。墓場の下とはこんなものなのか。

 ただ意識だけは非常に明瞭で、むしろ過敏でさへある。何か、ほんの僅かな光でも音でもよい。そこに見えたら、飛び上がるほど驚くだらう。

 體の感覺もなく、ふはふは浮いてゐる感じもない。死とはこんなものか。たうとうこの世の最後がやって來たのか。或は生まれる前の世界に戻ってしまったんだらうか。

「まぁ好きに考へたらエェは」

 お前か。どこにゐる?

「ここだ」

 見ると、目の前に浮かんでゐるではないか。バッタの顏を大寫しにしたやうな、目が大きく、全體に異樣なバランスの、イヤな顏だ。

「さうか。さういふ目で觀るのだな」

 ところでお前は一體何なんだ。さっきからづっと俺に附纏ってゐるやうだが、時に姿や聲、顏まで變へやがる。いったい何が目的なんだ。

「分からないのか。ならいい。バッタの出來損ないみたいなものだ。お前には似合ひの相手だな」

 まぁ、さう怒るな。あの世でも、俺の周りには同じレベルの人間ばかりが集まって來たが、こっちでも多分さうなのだらう。今の俺にはお前がよく似合ふ。それぐらゐなことは分かるやうになった。 


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