2011年07月28日

おほみづ 廿三

 ナはブドウ農家を始めた。ある日、ブドウの實で作ったワインを飮んで醉っ拂ひ、テントの中で裸になってゐた。

 それを息子の羽美がみつけ、兄の瀬美、八重出を呼んだ。すると瀬美と八重出は上着を脱いで肩に掛け、後ろ向きに進んで父に近づいた。さうして父の裸を隱した。

 しばらくして、醉ひの覺めたナは、急に怒り出した。
「羽美の奴め、俺に恥を掻かせてくれたな。羽美の子の加奈に災ひあれ。ヤッコとして兄たちに仕へよ。八重出も、瀬美の家を祝ひ、加奈はそのヤッコとなれ。神よ、八重出を八重に太らせ、瀬美のテントに住まはせ給へ。さぁ、加奈はそのヤッコとなるのだ」

 ナは大水のあち三百五十年(みほまりいそぢ)生き、九百五十歳(ここのほまりいそぢ)で死んだ。

「ナは、羽美にチンコを觀られたぐらゐで何を怒ってゐるんだ?」

「さぁねぇ。我々だって、外でチンコは出さないだらう。大腦新皮質が日常的に機能してゐないやうな人は別だが、家の中でこっそり開放感を味はってゐるとき、誰かにモザイクを施されたら、ふと我に歸って、やはり恥づかしいのぢゃないか?」

「そらさうだが。我々のさういふ二重生活は、やはり善惡を知る樹の實を喰ったからだらうか」



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2011年07月27日

おほみづ 廿二

 方舟から出たナの子は、セミ、ハミ、ヤヘデ。地上の民はすべてこの三人から出た。

「といふことは、我々倭人もかな?」

「さぁねぇ。さういふ話は我々の言ひ傳へには殘ってゐない」

「しかし忘れちゃったってこともあるだらう」

「どうでもいいことは忘れるなぁ」

「お前は國粋主義者か」

「勝手に言ふがいい。俺は俺以外のものにはなれない」

「おや、居直る氣だね?」

「居直らずに何をするんだ?しかし、俺は俺のことを實はよく知らない。かうして俺の金玉の震へるものを探してゐるだけだ」

「若いね。自分探しの旅って譯かい」
「自分探しの旅ってのはな、自分を見失ふ爲に出る旅だらう」



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2011年07月26日

おほみづ 廿一

 また神は云った。
「我と汝らの終りなき契りの證しとして、空に我が虹を置かう。空に虹が現れたなら、我は汝らとの契りを思ひ起こさう。さうすれば、再び大水が汝らを呑み込むこともなからう」

「うへぇ、恐れ入りました。虹が契約書代はりといふことでせうか?」

「虹はヌジ、空がヌれて光が屈折する現象(きざシ)をいふ。大水の後を思ひ起こす縁になるのではないか。英語ではレインボウ、つまり雨の弓といふ。お前ら、この雨の弓を忘れるな、といふ警告も含まれてゐるのではないかな」

「虹は空の架け橋だから、神と生き物を結ぶ架け橋の意味もあるのぢゃないか」

「虹は日本では七色といふことになってゐるが、歐米では五色、或は六色といふ文化もある。まあ細かく分けると、青紫から赤まで無限に分けられる。つまりは、どうにでも解釋出來る玉蟲色の怖い契りだとも言へる」

「虹は橋だとか契りの證しだとか言っても、本當に人が乘ったら落ちちゃふだらう。幻みたいなものかも知れないな」

「いや、虹が地面に刺さるところには、金の壺があるかも知れない」



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