2011年06月21日

たま 五

 この世で最も賢いものは蛇だった。蛇は何をすれば何を得るか、何をしなければ何を失ふかをよく識ってゐた。

 ただ、殘念なことに、この蛇は何を得れば何を失ふか、何をしなければ何を得るかはよく知らなかった。この尾しかない生き物をヲロチといふ。

 この蛇の口癖は、「かうすればああなる、かうしなければかうならない」が口癖である。

 このヲロチが女のところへ來て云った。
「その庭の眞中にある木の實を食べると、神のやうに賢くなる」
 すると女は、
「しかし神のやうになれば、死んでしまふ」

 蛇は、やれやれ、と無い手を廣げ、無い肩を竦めながら云った。
「神のやうになれば、死ぬ譯はないでせう」



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2011年06月20日

たま 四

「しかし、獨り身は良くないな。すべて己れでしなければならないし、だいち、いったいこの臍の下にある子は何なんだ。なぜ朝と晩で伸び縮みするんだらう」
 とある時おもった。

 すると、地から獸が出、ある物は空を飛んだ。毛の生えたものはケノモノ。訛ってケダモノ。空を通るものはトホリ、言ひ易いやうにトリ。

 かうして人は物の特徴で名を附けた。だからケノモノに似て毛の無い物は變はり物、トリの癖に地面を蹴るだけの物は、その鳴き聲からカケ、その生まれたての小さいのはピヨと呼んだ。

 さうして寢てゐる間にまた、肋骨が一本無くなった。その肋骨に肉がつき、やや小型の仲間が出來た。
「お前は俺の肋骨だらう。しかし俺に良く似てゐるな」
 と云ふと、そいつは、
「あなたも私と似たやうなもの。しかし私の體の隙間を填めることは出來さうだは」
 と云った。

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2011年06月19日

たま 三

 地にある草、木の實の生る木はすべて食べることが出來た。

 かうして日が過ぎ、すべての生きる幸が滿ち足りた。

 人は日の出る方角に平地を見つけ、そこに移り住んだ。そこには美味そうな實の生る木が多く、また國の眞中には生きる木と賢くなる木とがあった。

 生きる木はただ美味しいだけだが、賢くなる木は、それを喰ふと、人に法が出來、してはならないことが多くなるので、けして食べてはならなかった。

 法が出來れば必ず破る者が出、彼は水に流されるだらう。法の字は「水に去る」である。

 それゆゑ、死にたくなければ、この實は食べてはならない。さう思はれた。



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