2011年05月31日

葉隱 十

 午後はミウジアム内の勤務。但し相勤は近藤兼子といふ、やはり二十代半ばぐらゐの人。ここも一時間交代で捥りと、監視役に就く。涼しいのは好いが、監視カメラが最低三箇所は附いてゐるやうで、氣が拔けないのが辛い。

 今日は客のゐない時間の方が長く、もうすっかり觀盡くしたU字型の展示場内をぐるぐると囘る。こんな樂な仕事もないが、一分間で十何圓にしかならないと思ふと足が怠くなる。

 さういへば、四月の初めから勤めてゐた臨時職員は、六月に三萬圓ほどの調整手當といふものが出たさうだ。さうなると、七月から勤め出した中村は、十二月に六萬ほど貰へるだらうか。さう思へば足も少し輕やかになる。

 やうやう長い一時間を終へ、受附に囘った。交替の近藤に、「今日は靜かですね」と話しかけると、
「今度の土曜日曜は夏休み最後で屹度混むんですから、今日の當りで好かったですね」
 と笑った。この近藤は老舗の御菓子司の娘で、如何にもそんな家の御孃さんぽい感じ。センタアなどに勤めるのは婿探しの爲だらうか。




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2011年05月30日

葉隱 九

 殘暑の燒き附くやうな石疊の上から、薄暗い建物の中へ戻った。くらくらと目眩がするほどに涼しい。

 渡邊はまだ二十代の半ばのやうに見える。臨時雇ひのスタッフの中では浮いた存在になってゐるが、それは彼女が指導的な役割を擔ふからだらう。同じアルバイトの立場で、しかも年下の渡邊からあれこれ指圖がましいことを言はれれば、誰でも好い氣持ちはしない。

 だからその渡邊が、隱しマイクの話などするのは意外だった。しかもよく知りもしない筈の中村に職務懈怠を勸めるとは。もし中村が大河原にでも漏らせば、自分の立場が惡くなるであらうに。

 渡邊は、小物商品に値札をつけながら、
「もう半月もすれば、少しは涼しくなるでせうけど、夏と冬は表に立ってゐるのが大變」
「さうですねぇ。一日中室内勤務だと、今度は夜が寢苦しいし」
「あぁ、さうですね。だから半日交替で、なるべく外と内になるやうにはしてゐるんだけれど」

「あぁ、それで。ここも外に立つやうになってゐるの?」
「それは、さうかな」
 渡邊は意味あり氣に笑んだ。



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2011年05月29日

葉隱 八

 正門管理棟。ここは小さな鐵筋の建家の中に二疊の控室とトイレ、湯沸室があり、事務室内には事務机二つとワゴンなど、ところ狹しと竝んでゐる。

 勤務員は二人。一人は門の脇に立って捥り、もう一人は事務室内で待機、券賣機の管理などを擔當する。ところが今日は平日だから入場客もパラパラ。十分以上も立ちっ放しの中村に、裏の口から出て來た渡邊が、
「こんな日は、適當に休んでおいた方がいいですよ。どうせ、一日中、こんなもんですから」
 と云ふ。さうして、こっち、こっちといふ風に、入口へ招き寄せた。

「お客さんが見えてから、出れば十分に間に合ひますから」
 と、小聲で云ふ。そんなことは渡邊にも分かるが、捥りは立ってゐて下さい、と大河原が強調してゐた。その爲に二人も配置して、一時間交替にしてゐるのだと。

 ドアを開ける前に、
「この中、隱しマイクがあるらしいですから・・・」
 と笑ふ。「ただ、誰がどこで觀てゐるか分からないから、如何にも用があるやうな素振りをして、戻らなきゃ駄目ですけど」



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