2011年03月29日

あをくも 六

「あの南の門、B門て云ふのかい。あの直ぐ西側の邊までトロの道が來てゐたんだよ」

「いつ頃の話だ」

「俺が子供の頃だってよ」

「トロは手動か」

「まさか。砂利を運ぶのに手で動くか」

「砂利なんか採ってどうすんだ」

「昔は採らなかったんだがなぁ。明治になって、コンクリに混ぜたり、いろいろ砂利の使ひ道が増えたやうだなぁ」

「なるほど。なんで昔は採らなかったんだ」

「砂利を採っちまふと、川が深くなるから、水が取れなくなるし、だいち濁るだんべぇ」

「さういふことがあるだかよ。しかし電氣軌道車で砂利を運んだら、川も大分傷んだぢゃねぇか」

「傷んだらうなぁ」

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2011年03月28日

あをくも 五

 間もなく鳥飼が歸った。受附の名簿を覗き込んでゐるから、どうかしたのかと尋くと、
「いやね、このK土木、勝手に門を開けて入ってゐるから、受附は濟ませたのかと聞いたら、濟ませてないって云ふから、受附で記帳するやうに言ってやったんだよ」
「またB門か」
「さう、南の門だね」
「南の東のB門だな」

 センタアには正門と非常口の他に三つの通用門がある。一つは職員等が出入りする裏門、殘りの二つは園内作業車の出入りする門。東側のをA門、南側のをB門と呼んでゐる。

 K土木は雨で崩れた法面の工事に入ってをり、門扉の鍵も預かってゐるやうであった。市内では最大の企業であり、施工主は市であるから、センタアを輕んずる風も見える。

「あの門は前にも開けっ放しで歸っちまった奴がゐた。K土木かどうかは分からんけど」
「一見閉まってゐるやうに見えても、錠をきちんと掛けてゐないこともあるから、よく看て確かめた方がいいよ。それが警備の仕事なんだから、何かあったら我々の落ち度になるだけだし」

 
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2011年03月27日

あをくも 四

 鳥飼の歸る前に晝食を濟まし、蒲團干しをして置く。カアテンを全開にし、窻を開け切ると空氣の匂ひが甘い。さうなると部屋の汚れが氣になり、掃除も際限がなくなる。

 寢臺の下にビニイル袋があり、中に空のビイル罐やらコンビニの割箸、食品トレイが入ってゐた。設備の若い者が置いて行ったものだ。主任の中馬に見つかると叱られるから、わざわざ衞視室に來て飮み食ひをする。二十歳になったばかりの若者である。

 警備の太郎や山崎がそれを許すのは、中馬に反感を持つからだ。中馬の年配者を小馬鹿にしたやうな態度、それに太郎達の年甲斐の無さが抵抗する。間に立つ坂前としては頭痛の種の一つであった。

 そこへ漸う工事業者が現れた。今日の十時から午後に亙り工事豫定が入ってゐた。受附のノオトに11:20入園、K土木、佐伯外三名と記帳し、足早に去った。南側の通用門から園内に車輌を入れるやうだ。

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