2011年02月22日

コロシアム 六

 まもなく眞打の登場だ。さっきと同じカジアルなワンピース、Kパンツといふ出立ちながら、さすがに少しは化粧氣も出來た。ここらの田舎スナックには勿體ない玉だ。

 ついうっかりと寢過ごしてしまったと詫び、「こちらの方は」と大見を仰ぐから、
「彫刻家の大見健作。今日はこいつをわざわざ連れて來たんだよ」と紹介すると、
「かねがねお名前は伺ってをります。これを御縁にどうかご贔屓下さいますやうに」
 と惚けた挨拶をする。
 
「これは先程の狸寢入りとも見えません。お互ひ、學校こそ違へ、同い年なんだから、まぁ堅苦しいことは拔きで行かう」
 健作のことは、上田芳江とのことも絡め、よく話の種にしてゐたのに、それを噯にも出さないのが面白い。

 すると鐵が、「僕は今度また、ゆっくりと。その代はり、この二人にはたっぷりと。特にこの大見先生はセンタアの大事な仕事がかかってゐますから」と云ふ。
 
 優作も、「それならタクシイを呼ばう。僕も明日が早いからここで失禮する」
 と、退散することにした。それならと、健作も立たうとするから、肩を押して座らせ、電話でタクシイを呼んだ。
posted by ゆふづつ at 21:00| 日記 | 更新情報をチェックする

2011年02月21日

コロシアム 五

 結局、女と四人、先に店で待つことになった。
「どっちがお客さんだか、分からないな」
 と、鐵、ぶつぶつ云ふが、これは多少の身内である晴美を庇ふのだらう。ともかくもカウンタに竝び、晴美を待つことにした。

 件の女、よく見ると四十どころではない。ひょっとしたら五十を超えてゐるやうにも見える。が、頬の小K子が妙に色っぽい。
「僕は燒酎のお湯割がいいな」と注文すると、殘りの二人もそれでよいと言ひ、女がカウンタの下から瓶を取り出した。
 
「このさっちゃん花って、どこで仕入れるの」
 と、鐵が聞いてゐる。
 女、「そりゃ分からないけど、もうこれ一本きゃないんだよ」
 さっき晴美の部屋に見えたのも同じ、前に上田福子が手土産に呉れたのも同じ銘柄の瓶だった。

「ごめんなさい。今日はつきだしも無いものだから」と女は冷藏庫から手當り次第、食へさうなものを出して竝べる。優作はもう異樣に腹が減ってゐるから、何でもよい。片端から口へ放り込んだ。

posted by ゆふづつ at 23:07| 日記 | 更新情報をチェックする

2011年02月20日

コロシアム 四

 女は、最近コロシアムに勤め出したアルバイトだといふ。暗くてよく見えない分、もう四十を超えてゐさうな雰圍氣が分かる。今、店へ出たところ、戸が開かぬので此方へ囘ってみたのだと。

「ママはまだ寢てゐるよ。こんなことは始終あるのかい」と尋ねると、ときどき酔って來ることはあるが、こんなことは初めてだと言ふ。
「貴女は何時からお店に出てゐるんでしたっけ」
「こないだの土曜から」

「濟まないが、ママを起こしてやってくれないか。玄關も開けっ放しだし、このまま一人で置いとく譯にも行かないだらうから」と頼むと、女はあっさり、「分かりました」と戸の内へ入った。

 優作が、「一人で遣って大丈夫かな。財布でも盗みゃしないか」と呟く。
「今頃は茶箪笥とか押入を物色中だね」と鐵。「あァあ、折角飮みに來たのに、こっちが醉拂ひの世話をするとは」
 と左腕を突き上げ、腕時計を仰いだ。

posted by ゆふづつ at 22:00| 日記 | 更新情報をチェックする