2011年01月25日

小野 三

 晝食は福子だけを缺いた七人。今日は月曜で本當はセンタアの休園日なのだが、ゴオルデンヰイクの中日で掻き入れ、休みはヰイク明けの木曜に振り替へなのださうだ。

「折角のゴオルデンヰイクもふっこにとっては厄日續きのやうだな」と藤三郎が笑ふ。「そもそもああいふものは公が行ふと役人が食ひ物にして陸なことにならないのだから私設の財團といふことにしたんだらうが、それなら職員も全部民間にしてやらせなきゃをかしいだらう」

 しかもその民間は錢儲けのやうな迫いことはせず、金持ちの道樂でやらなきゃな。文化とか何とか言っても、高級なものは全部無駄なものなんだよ。無駄を許す社會ぢゃないと本當に良いものは出來ない。

 俺は今の笠掛市がそんな無駄を許すとは思はれない。あんな貧乏なものを作ってセンタアの職員ばかりいぢめてゐる。さていつまで續くことやら」
 とキャベツのお燒きを頬張りながら、藤サが言ひたい放題。
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2011年01月24日

小野 二

 昨夜、包装紙の日記帳が、夕食後の福子から手渡された。
「兄さん、昨日はごめんなさい」
 と。その場で開けてみて、誕生祝とは珍しいことをすると思ひ、
「ありがたう。それよりも、最近疲れてゐるやうだぞ。詰まらない氣は使はず、休みの日ぐらゐはゆっくりしてゐろ」
 といふ話になり、食卓の話題は他へ逸れた。

「今の福子ちゃん、昔の雪子母さんの面影とよく似て來たはね」
 と美代子も思ひ出深さうだ。
「さうだねえ。美代ちゃは直ぐ東京へ出ちゃったから、あの頃の雪ちゃをよく憶えてゐるんだ」
「雪子母さんは少しおっとりで、福子ちゃんの方がしっかりしてゐるやうに見える。それもやはりお母さんにあんなことがあったから、本當は甘えん坊なのをづっと我慢して來たんでせうよ」

 美代子は晝食の支度に階下へ降りた。藤三郎と瑶代、それに子供三人が春キャベツを穫りに畑へ出てゐる。及川の岡の上、小野といふ長閑な土地。窻の外は五月の光に溢れてゐる。
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2011年01月23日

小野 一

 五月のゴオルデンヰイクに入るが、特に何もする氣がせず、讀み差しの本を開いたり、教材の準備をしたりと閑な時間を過ごし、高くなった陽についうつらうつらしてゐると、トントンと階段を上がる音がした。妻の美代子だ。

「ねぇねぇあなた」と來た。机上にある立派な日記帳を見て、「ふむふむ」と感心してゐる。
「何がふむふむだ」と聞くと、
「ディアリって日記帳のことね」と云ふ。

「ディアリぢゃない。ダイアリだろ」
「何でもいいは。でもあなたが日記帳なんて、書きさうもないやうに思ふはよ。なぜ日記帳なのかしら」と不思議さうだ。
「さうだね、俺も不思議に思ってたよ」

 日記帳は、昨夜、わざわざ町へ出かけた福子が買って來て呉れた。一昨日が鐵の誕生日で、一家が簡單なお祝ひをしてくれた。福子だけが忙しくて深夜に歸った。日記帳はその詫びのつもりらしい。彼女の勤めるセンタアの監査が六月にあるさうで、その準備に大童のやうだ。
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